相続対策として最も大きな財産圧縮効果が生じるのが不動産の活用となります。
そこで今回はなぜ不動産活用が相続対策となるのかということについて税理士の視点からご説明いたします。
不動産の相続税評価方法は時価ではない
被相続人の死亡により発生する相続税は、被相続人が所有していたすべての財産の合計額に対して課税されることとなります。相続税申告を行う場合における個々の財産の評価方法については財産評価基本通達に定められており、原則として土地は路線価、建物は固定資産税評価額を基準として計算を行うこととなります。
不動産の時価と相続税評価額の差が圧縮される
不動産の相続税評価額は実際に売買を行う際の時価(以下「実勢価格」という)と異なり、納税者が実勢価格を超えて課税されることのないよう評価の安全性の見地から実勢価格と比較して低い金額により評価されることとなります。例えば有価証券や預貯金であれば時価が明確であることから原則として相続発生時点の時価で評価されますが、不動産については個別に時価の算定を行うことが非常に困難であることから、すべての納税者が簡単に評価できる方法として路線価や固定資産税評価額を基準として計算方法を定めています。そのことにより売買時価と相続税評価額に乖離が生まれ、その差額相当分の相続財産が圧縮され結果として相続対策につながることとなります。
不動産は財産の形を変えて評価を圧縮する代表例
そもそも相続税を軽減するための対策の基本的な考え方としては、贈与のように実際に所有している財産を減少させて軽減する方法と、直接的に財産を減少させるのではなく財産の形を変えて評価を小さく見せることで軽減する方法の二つの方法がありますが、不動産活用による相続対策は後者の財産の形を変えて評価を圧縮する対策の代表例となります。
相続で注目すべきは債務ではなく財産
時々借入金を多くすることが相続対策だという話を耳にすることがありますが、これは本当でしょうか?借入金は負の財産となりますので相続財産から控除することができるため借入が多くなればなるほど控除できる金額が増加すると考えられる方がおられます。しかしこの考え方は正しくはありません。もし財産が1億円ある方が借入を1億円した場合にはどうなるでしょうか?銀行からの1億円の借入に伴い通帳残高が1億円増加しますので、「財産1億円+借入による増加財産1億円-借入金1億円=1億円」となり結果は当初の財産額と全く変わらないこととなります。つまり相続対策において借入金は多く借りようが早く返済しようが評価額に影響を与えることはありません。相続対策において注目すべきは債務ではなく財産側であり、お金から建物に形を変えることで財産を小さく見せることにより大幅な圧縮効果が生れることを認識しておくことは重要なことと考えます。
松原 健司
税理士法人FP総合研究所 代表理事・CEO 税理士