この度は直近の判決事例を引用しながら、不動産の評価につき何が論点となっているのかをご説明させていただきます。

相続対策に不動産が活用される理由は、相続税評価額が実勢価格と比較し大幅に圧縮されること

相続税の申告における各財産の評価額については、国が定めた財産評価基本通達(以下「評価通達」という)をもとに計算を行います。当該評価通達に従い不動産を所有している者が相続税評価額を計算する際には、原則として土地は路線価、家屋は固定資産税評価額を基礎として行うこととなります。

このように計算された相続税評価額が実際の取引金額と比較して大幅に圧縮された金額になることから不動産が相続税対策として活用されるのですが、最近の判決事例において評価通達による評価額が否認され、不動産鑑定評価による評価額で相続税申告をすべきとして更正処分された事例がいくつかあります。

相続対策として評価の圧縮を狙い建築・取得を行った不動産は評価額が否認される場合がある

先にもご説明をいたしましたが不動産の相続税評価については原則として評価通達に定められた土地又は家屋の評価方法により計算を行うのですが、当該評価通達の中に第6 項として「この通達の定めにより難い場合の評価」という規定があります。つまり評価通達により計算を行うことが不適当であると判断する場合には当該6 項を適用して計算するという趣旨となりますが、内容としては「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁⻑官の指⽰を受けて評価する」とされております。

この6 項の規定を国が適用することにより、相続対策として評価の圧縮を狙い建築・取得を行った不動産につき、従来の評価通達による評価額が否認され、国税庁⻑官が指定する鑑定評価による評価で行うべきであるという判決事例を近年目にすることが増えてきました。

納税者の主張を退けて国が勝訴した事例

今回は令和3 年4 月27 日における東京高裁での控訴審において、6 項適用を適法とした地裁の判決を支持し、納税者の主張を退けて国が勝訴した事例をご紹介いたします。

被相続人である父は亡くなる3 ヶ月前にがんが発覚したこともあり、中古不動産を15 億円で購入しました。死亡後相続税の申告に際し当該不動産を評価通達に従い4 億8,000 万円の評価で申告を行いましたが、課税庁は6 項により評価通達に基づき評価することが著しく不適当と認められるとして、不動産鑑定士が鑑定評価した金額である10 億4,000 万円で更正処分を行ったことから、これを不服とした納税者と争いとなりました。

  • Point1 相続税を減少させる目的で不動産を相続開始直前に購入

納税者の主張として、まず評価通達以外の評価方法により評価を行う基準が明確でないことから、租税の基本である予測可能性を著しく損なうものであり当該処分は不当であるとの主張を行いましたが、裁判所は相続税を減少させる目的で不動産を相続開始直前に購入しており、評価通達による金額と取引金額との間に著しい乖離が生じることは納税者において十分に理解していることから、実際の取引金額(鑑定評価額)で評価されることは予測可能性がなかったとは言えないとして納税者の主張を却下しました。

  • Point2 当該不動産の評価額が鑑定評価額の半分以下

また納税者は日本国内において不動産を活用して同様の対策を行っている者が多数おり、これらの者の相続税評価額と取引金額にも乖離があることから、当該乖離があることで評価通達による評価が適当でないとは言えないとの主張もしましたが、当該不動産の評価額が鑑定評価額の半分以下であり、5 億円以上の減少があることは乖離の程度が著しいと言わざるを得ず当該乖離を一般的とみることはできないとして裁判所はこちらの主張も却下しております。これらの結果一審の地裁判決に続き、高裁においても納税者が敗訴することとなりました。

今後相続対策を不動産で検討される場合の注意点

現在、不動産の相続税評価における6 項の適用の可否に関して、継続して行われている裁判の事例が2 件あり、いずれも現時点において高裁で納税者が負けております。

最終的な結論としては最高裁の判決を待つ形となりますが、現時点で注目すべき点として、以前は相続対策として不動産(主としてタワーマンション)を取得し相続発生後短期間において売却した結果、取引金額である売買代金が明確であるという理由で6 項が適用されているケースを多く目にしましたが、最近の2 つの事例ではいずれも不動産は相続後引き続き保有している状態で課税されているという点です。

この度の判決の要因としては、評価額の乖離が大きいこと、相続開始直前に不動産を取得していること、税負担の軽減を目的とした相続対策を前提としていることなどが6 項で評価を行うことが適切とする大きな要因となっております。

今後相続対策を不動産で検討される場合にはこれらの点を総合的に判断し、専門家のアドバイスを受けながら実施されることをお勧めいたします。

松原 健司

税理士法人FP総合研究所 代表理事・CEO 税理士