相続対策としてお金から不動産に形を変えることで評価が圧縮される話を前回以前でさせていただきましたが、今回は不動産貸付を行うことで更に評価が圧縮される可能性がある貸付事業用宅地等の小規模宅地等の特例についてお話させていただきます。

小規模宅地等の特例とは

そもそも小規模宅地等の特例とは、相続人などご家族にとって重要な不動産に対し高額な相続税を課税すると納税を行うために当該不動産の売却が必要となるなど今後の生活の維持が困難になることを抑制するため、一定の要件を満たしている不動産につきましては相続税の評価額を大幅に圧縮するという制度になります。小規模宅地等の特例は主に事業や居住の用に供している宅地に対し適用が可能であり、不動産貸付を行っている宅地についても当該特例の適用が可能となります。

制度の概要

相続開始の直前において被相続人等の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業等に限ります。以下「貸付事業」といいます)の用に供されていた宅地等で下記の区分に応じてそれぞれに掲げる要件のすべてに該当する被相続人の親族が相続等により取得した場合には、相続税の課税価格に算入すべき土地の評価額の計算上200㎡を上限として50%の減額を行うことができます。

(要件)

①被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地等

  • 貸付事業を相続税の申告期限まで引き継ぎ、その申告期限まで貸付事業を行っていること
  • その宅地等を相続税の申告期限まで有していること

②被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の貸付事業の供されていた宅地等

  • 相続開始前から相続税の申告期限までその宅地等に係る貸付事業を行っていること
  • その宅地等を相続税の申告期限まで有していること

注意点は?

上記のとおり貸付事業用宅地等に該当しますと相続税評価額を大幅に減額することが可能となりますが、いくつか注意点がありますのでご説明いたします。

まず、その相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等については当該小規模宅地の特例の適用対象から除かれることになります。大幅に評価を圧縮することができる小規模宅地等の特例の適用を目的として貸付事業用不動産を駆け込み的に購入または建築することを抑制するため、平成30年の税制改正においてこれらの土地は対象外とされることとなりました。ただし、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等であっても、相続開始の日まで3年を超えて引き続き事業的規模による貸付事業を行ってきた被相続人の貸付事業の用に供された宅地等については3年以内の貸付宅地等に該当しないこととなります。

また、貸付事業用宅地等の小規模宅地の特例は被相続人が居住の用に供していた宅地で一定の要件を満たす場合に適用される特定居住用宅地等の小規模宅地等の特例との選択適用となります。特定居住用宅地等の特例は限度面積や減額割合も貸付事業用宅地等の特例より大きくなることから適用が可能な場合には特定居住用宅地等の小規模宅地の特例を優先的に利用するケースがあります。このような場合には貸付事業用宅地等の小規模宅地等の特例については全部または一部につき適用ができなくなりますのでご注意ください。

松原 健司

税理士法人FP総合研究所 代表理事・CEO 税理士